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わたしたちの主張
平成29年6月15日

医療事故調査制度へ一考

平成27年10月から施行された医療事故調査制度は、皆さまご存じのように、医療の安全を確保するために、医療事故の原因究明と再発防止を目的としており、医療機関またはその従事者の責任追及を目的とするものではありません。
 本年3月に医療事故調査・支援センター事業報告が一般社団法人日本医療安全調査機構から公表されました。医療事故という用語は一般的に使用されている意味での医療事故ではなく、死亡事故に限定したものであり、ここがどうも患者さんやご遺族に誤解されやすいものと思われ、もちろん医療従事者の方にも誤解が生じていますが、医療事故センターへの相談がいわゆる一般的な医療事故に遭われた本人からの相談がかなりの割合で行われています。
 死亡事故はさらに・医療従事者が提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、・当該管理者が当該死亡または死産を予期しなかったものが報告の対象に該当します。医科歯科を問わず、また病院でも診療所でも助産所でも報告の義務があります。さらには介護保険施設や有料老人ホーム等で起きた医療事故も相当です。1年3ヵ月で487件の医療事故報告がセンターに受理されております。
 事故調査・支援センターはこれらの医療事故ついての情報の収集・調査・検証・研修等の業務を通して、医療事故の防止のための適切な対応策の作成に役立つ知見を集積し、普及啓蒙を行うことにより、医療の安全確保と質の向上を図ることを目的としています。
 さてどうして死亡事故だけに限定されたのでありましょうか。死亡にまで至らず、幸いにも救命し得た予期せぬ重大な医療事故がどうして含まれなかったのでしょうか。予期せぬ医療事故が発生した場合には最善の努力を図って救命することは医療従事者として当然の責務であり、残念ながら死亡事故に至った症例よりもはるかに多いものと思われ、医療の安全確保と質の向上を図るに必要な情報が豊富に得られるものと思われるのですが。
 始まってまだ1年8ヵ月ほどでありますから、これからいろいろ改善されていくことでしょう。制度は医療機関またはその従事者の責任追及を目的としているものではありませんが、この制度があるからといって遺族側から訴訟に持ち込まれる可能性が減少するわけではありません。再発防止目的に正直に報告した資料が証拠として利用されてしまう可能性もあります。被告人は本来自身の不利益になることは陳述しなくとも罪に問われませんが、不利益証拠として利用されてしまう可能性がある、といういまいましき問題が存在していることになります。
 まだまだ改善しなければならないところが多いように思います。日々細心の注意を怠らず、日常診療に最善を尽くしていきましょう。
 (会長 藤戸 好典)

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