今、医学部への入学が超難関となっている。現在、医学部へ入学するためには東大理系に入学するほどの偏差値が必要らしい。飛び抜けた学力が無ければ、高校生が現役で医学部へ進学することは至難なことだという。
行き先が見えない日本の社会が今の医学部人気の原因であるが、頭脳明晰な若者が全て医師になることが日本の将来に良いとは思えない。もしかすると最近公表された医師過剰時代到来の情報や診療報酬が実質的にはマイナス改定であったのは、厚生労働省が文部科学省と結託して医学部人気を落とし、「秀才たちよ、医学部進学に固執せず日本のために視野を広げよ!」というメッセージを含んでいるのではないかと訝っている。
今春、高校を卒業した息子の予備校探しに付き合った。予備校の進路指導担当職員から話を聞く機会があった。驚いたのは、最も偏差値が低い私立の医学部でも、受験の科目数は異なるがという前置きで、東京大学の理科・類・・類とほぼ同じ偏差値だという。息子への説明を横で聞きながら、「もし自分が今の時代に受験生だったらきっと医者にはなれなかっただろう」と背筋が凍る思いだった。そういえば、医師国家試験の合格率が悪いことで有名になってしまった母校でも現在は3浪、4浪は当たり前だと同窓会の会長から聞いたことを思い出した。
たしかに試験で高得点が取れる頭脳、ミスを犯さない注意深さは医師にとって必要な素養であることには間違いない。しかし、言うまでもなく医師にとって必要なのは「学力」以外に、強靭な肉体と看護師や事務職員など他職種とのコミュニケーション能力、患者さんの気持ちを共感する能力などである。このような能力は高校時代の部活動や学校行事に参加することで学べることだと思う。自分のことを振り返っても、高校時代に厳しい指導者の元で剣道をやり抜いたことがその後大いに役立った。
誤解を恐れずに書くと、私が尊敬する医師のほとんどがラグビー部、サッカー部、バスケット部などの厳しい運動系の部活動出身者である。今の医学部入試の状況では、よほどの秀才でない限り、部活動に邁進した高校生が現役や1浪人で医学部へ入学することは難しいのではないだろうか。だが、大学医学部の教官もきっと分かっているのだろう。全国の大学医学部が地域枠や推薦入試の枠を広げているのは、医師としての素養を持った現役高校生に門戸を開くための対策なのかもしれない。
厳しい医療情勢のなか、近い将来医学部人気はきっと下火になるだろう。少なくともその時まで、これから医師を目指す高校生は毎日の学校生活を充実させ、心と体を鍛え、推薦入試制度をうまく利用することがより良い医師になるための近道なのかもしれない。
(理事 南里 正晴)
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