「PFAS汚染」
PFAS汚染が話題になって久しいが、PFAS汚染の何が問題で何が現状で、どうしなければいけないかが解りにくい状況である。
PFASは有機フッ素化合物であるが、1万を越えるPFASの中で問題になるのはPFOA(ペルフルオロオクタン酸)とPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)の2種類である。
PFOAは佐賀県の下水処理場で高濃度で検出されたことで、記憶に留められている方もいるかと思われる。PFOA・PFOSが問題になるのは化学工場の排水に混じってこれらが流出し、その水が上水道の水として、また農業用水として利用されたり、地下水として流出し付近の農地を汚染し、そこでの農産物を食べることで人や家畜の身体に蓄積し健康被害を及ぼすからである。
以前の主張(2024年12月号)でも述べたがPFAS汚染は第2次大戦中に発見された。水にも油にも溶けず撥水するため、便利な化学物質として、石油火災泡消火や焦げつかないテフロン加工、化粧水などに利用されてきた。
しかしアメリカの化学会社デュポン社の工場周辺で何百頭もの牛が汚染した川の水を飲んで死んだり、周辺住民がさまざまな健康被害に苦しんだことで訴訟となり、訴訟でデュポン社が敗訴し、その後は被害に対して和解して補償金を払わざるを得なくなった。
2011年にはPFASと健康被害について、科学パネルが確実な関連性として6項目(①腎臓癌、②睾丸癌、③潰瘍性大腸炎、④甲状腺疾患、⑤高コレステロール、⑥妊娠高血圧症)を認定したことが大きな前進につながった。科学パネルが先天異常や低出生体重児、未熟児出産や流産とは関連を認めないという問題は残った。
アメリカでは、はっきりと健康被害の原因がデュポン社の排流出したPFASであり、それらに対して被害補償が決着したわけである。
さて、日本では大阪の摂津市にあるダイキンの淀川製作所の周辺で牛が何頭も死んだり、健康被害が出ているがまだ訴訟にもなっていない。ダイキンという会社も後ろ向きで、市や大阪府、環境省も早くこの問題に取り組み、今後の健康被害の拡大を防止しようとする積極的姿勢がない。
PFASの被害の拡大の程度や範囲を確証するために京都大学のチームが住民のPFOA・PFOSの血中濃度を調査すると、水系への汚染の流出からは説明のつかない高濃度の血中PFASの地図上の分布が抽出できた。ダイキンの淀川工場の周辺の空気中のPFOAを測るとドーナツ状の濃度勾配で、血中濃度患者分布の勾配と一致した。
デュポン社が行った社内調査によると製造工程で発生したPFOAがどのような割合で工場から排出されるかは、水65%、大気23%、土12%であったことと一致すると考えられる。
PFAS汚染は水俣病と同様の公害である。早い補償と対策が必要である。
(常任理事 山口 宏和)