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わたしたちの主張
平成26年2月15日

思うようにいかない・・・

 昨年5月に、ある整骨院より患者さんの紹介があった。患者さんは当院に通院されている方(祖母)のお孫さんで、高校3年生。よく話を伺うと、高校総体を目前に控えたバスケット部の選手で、プレイ中に受傷。すぐに近隣の整形外科を受診し、「前腕の骨折で高校総体には出場できない」と説明されたとの事である。どうしても最後の高校総体に出たい高校生は、うわさで「酸素カプセル(ベッカムカプセル)で骨折が早く治せる」と聞き、紹介してきた整骨院のドアをたたいた。症状をみてもらい、早速酸素カプセルの治療回数券(1万円)を購入し、当院でレントゲンを撮影してもらうよう指示されて当院に受診したわけである。
 レントゲンで橈骨近位端に小さな骨片はあるがほとんど転位はなく、手外科検討会でも保存的治療が選択されるような骨折であった。私も前医と同じように、「試合に出場できないが、慎重に治療すれば手術は回避できる」と説明したが、高校生は納得しないので家族と一緒に再来するよう指示し、家族にも説明した。それでもまだ納得しそうになかったので、その高校では私の同級生が教鞭を取っているので彼にも連絡し、「顧問の先生に高校総体には間に合わない事を伝えてほしい」とお願いした。
 整骨院には「酸素カプセルで骨癒合が早くなる事はない。またこの部位は整形外科医でも厳重な治療と経過観察を要する部位で、前腕の回内外制限、偽関節の合併症等が起こる可能性があり、治療をわれわれ整形外科に任せてほしい」と参考文献を添えて返答した。未来のある若い体だし、しっかり治療しなければと考えたのだが、それ以降高校生は私の前に現れる事はなかった。
 高校生がその後、何処に通院しどのような治療を受けたかは知らないが、昨年秋に祖母にあたる方が見えられたので、高校生のその後を聞きがくぜんとし、また何とも言えない虚脱感にとらわれた。高校生はなんと高校総体に出場し、当然ながら骨折部は転位し偽関節の状態となり、7月にある病院で手術を受けたとの事であった。高校生は手術が決まると、私の説明した通りになり、私に顔向けできないと悔やんだとの事である。自業自得と言えばそれまでだが、高校にしても親にしても、高校生を強く厳しく指導できなかったのだろうか?
 またこの事例は混合診療や健康保険法119条も関連する問題で注意を要する。協会新聞2013年3月号の「わたしの主張」で私が書いた 「Enter 症候群?リセット病?」…今の若者は治療の経過を我慢する事ができず理解しようとしない。コンピューター、スマホのようにいかない人間の体である。思うようにいかない…。
     (副会長 佐藤 直人)

 

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