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わたしたちの主張
平成26年11月15日

最近思う事

 先日、万年筆を買いにデパートへ行った。時間もあったし、博多の方が品数も多いだろうと考え、天神のデパートまで足を伸ばした。昔のデパートの文具売り場では万年筆は花形、ショウウィンドウの下にずらりと並ぶ万年筆をイメージしていたが、さにあらず万年筆売り場は狭く、品揃えも少ない。私が欲しい書き味が滑らかな太字の種類は一本も置いてなく、取り寄せになるとのことで、何のために博多まで足を延ばしたのかと後悔した。取り寄せまでして、また博多に出てくる気持ちはなく、不満足ではあったが1本買い求め、佐賀に帰った。

 当院は電子カルテでないので、万年筆でいつものようにカルテを書いていると、多くの年配の患者さんから「あら、懐かしい…先生は万年筆なんて使われるんですね」と声をかけられる。「手書きのカルテは医師の芸術ですよ」と少し洒落た話をする後輩がいたが、手書きの万年筆文化は消え去ろうとしているのかもしれない。

 携帯、スマホ、iPad のせいか読み書き能力の衰退が止まらない。医療事務の子が作った書類を点検する際に内容ばかりでなく誤字がないか注意をしなければならなくなった。最近、当院の医療事務の募集に応募してきた短大卒の人に初めての試みとして漢字の読み書きを試験した。半分以上正答できた人は皆無。「疾病」をほとんどの人が読めず、「凶悪」を「狂悪」や「強悪」と書いた。また「尊敬する人物は?」の質問には「お母さん」や「クラブの先輩」と全員が答える。私は看護学校の授業でいつも「尊敬する人は?」と聞かれたら、嘘でもいいから偉人の名前を挙げる事と、その理由を話せるよう準備しなさいとアドバイスしている。世界があまりにも狭いのと読書の習慣なんてほとんどないのが寂しい。

 空(すかい)男(あだむ)英雄(ひーろー)騎士(ないと)七音(どれみ)強音(ふぉるて)皆さん読めるだろうか?人の名前で、いわゆるキラキラネームというやつである。市役所の患者さんにこのような読み方は法律上に許されるかと聞いてみたところ、戸籍に残るのは漢字だけで読み方は残らないので何と読もうと自由とのことである。 ただ、 名前を変え漢字を変更するときは裁判所の許可が必要とのこと。私も外来でこのキラキラネームに最近よく遭遇する。しかし、キラキラネームに企業の人事担当が大いに警戒し、採用を見送る事も多々あるという話を最近聞いた。子ども時代より大人になってからの時間の方がずっと長い。子どもの名前には親の願いが伝わるような立派な意味ある名前を付けていただきたいのである。

 テレビが発明された時、「一億総白痴化」と警鐘を鳴らす人がいた。最近は小学校の授業にもタブレットが導入されつつある。考える能力を鍛えるのに大事な時期に機械に考えさせる能力を磨く。子どもたちはバーチャルな世界に引き込まれ、考え、創造する力を失う…そんな世の中にならないことを願うばかりである。

(副会長 佐藤 直人)

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