HOME » 協会新聞 » 2024年10月号 わたしの主張

おちんちんが痛い!

   どの診療科にも救急疾患はありますが、判断と対応を少しでも間違えると、思春期男子の精巣喪失につながる重要な泌尿器科疾患があります。そのため泌尿器科や小児科専門医だけではなく、一般医科はもちろんのこと、男子を持つ全ての親が知っておかなければならないと考えています。
 その疾患が「精巣捻転症」です。精索が捻じれて精巣への血流が途絶する状態で、発症後早期に解除されないと精巣が壊死に陥る疾患です。厄介なことに発症年齢のピークが13~14歳の思春期で夜間睡眠中や早朝起床時、寒冷期の発症頻度が高いといわれています。精巣捻転症で精巣救済に影響する重要な因子が捻転解除までの時間と捻転の回転度(何回転しているか)です。捻転解除までの時間が6時間以内であれば救済されやすいと報告されています。つまり緊急手術が必要な疾患なのに診療時間外に発症しやすいという困った疾患です。
 ほとんどが突然発症し、陰嚢内の疼痛とともに悪心・嘔吐などの腹膜刺激症状を伴う場合もあります。また訴えが下腹部痛ということもあります。思春期の男子が、寒い夜中に突然おちんちんが痛くなり、恥を忍んで親を起こした時、その子は適切な対応を受けることができるでしょうか。親が翌朝まで我慢させたり、電話対応した救急医が本疾患を想起せずに翌朝の受診を指示したり、初期対応した医師がその子のパンツを下ろして診察しなかった場合、精巣救済はほぼ絶望的になります。訴訟になってしまうケースもある疾患です。
 診断は陰嚢の診察所見やカラードプラエコーなどが有用とされていますが、類似した症状を呈する鑑別疾患が複数あるため泌尿器専門医でも診断に悩むことがよくあります。精巣捻転症の疑いを否定できない場合は早急に陰嚢の試験切開が必要で「正確な診断は手術室でしかできない」という意見もあるぐらいです。最近では主に非専門医向けの精巣捻転臨床予測ツールとして「TWISTスコア」というものが考案されています。
 精巣捻転症の正確な発症頻度はよく分かっていませんが、2000年頃に実施された九州地方の調査では年間男性10万人あたり0・56人の発症と報告されています。しかし前述のように陰嚢が痛くなる疾患(急性陰嚢症)は精巣捻転症以外にも多くあるので「おちんちんが痛い」という思春期の患者さんに遭遇することは泌尿器科医や小児科医以外の先生方もあると思います。「急性陰嚢症に対しては適正な診断と対応、そして迅速な手術療法が必要であることを多くの人に知ってもらいたい」が今回のわたしの主張です。

  (理事 南里 正晴)

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