最近、前立腺特異抗原(PSA)について、「PSA検診は意味がない」、「PSA測定が過剰だ」、「画像検査がなければPSAは測定できない」、「内科では検査できない」、など否定的な声が耳に入ってきます。 そこで今回、泌尿器科医として個人的な意見(主張)を述べたいと思います。 PSA検診を否定する論文はいくつも出てきます。それは検診の曝露率が高い国や地域では、治療が必要な前立腺癌が検出される確率は低くなるからです。 現在の佐賀県では前立腺癌検診が十分実施されているのでしょうか。当院で診断される前立腺癌の患者さんの60%は排尿障害で受診した患者さんです。この患者さんたちはPSA検診を一度も受けたことがありませんでした。泌尿器科を受診し、初めて測定したPSAが異常高値で、進行前立腺癌が診断されるケースが多いのが実情です。当院でのデータですが、PSA検診で診断された前立腺癌の約80%が根治可能な前立腺限局癌であったのに対し、排尿障害で受診して前立腺癌と診断された患者さんの60%が進行前立腺癌でした。当然、これらの患者さんは長期のホルモン療法や化学療法、骨転移に対する治療などと高額な医療費が必要となってしまいます。少なくとも現在の佐賀県では、まだまだ前立腺癌検診の役割は大きいと実感しています。 前立腺肥大症や過活動膀胱の治療を泌尿器科医以外の先生方が行う機会は多いと思います。ところが、佐賀県では泌尿器科以外の医療機関がPSAを測定する際、レセプトに前立腺癌を疑った根拠(エコー所見や前立腺触診所見)が明記されないと減点されてしまいます。しかし、前述の通り排尿障害の患者さんの中に進行前立腺癌が潜んでいる可能性があります。排尿障害の治療を行う以上、PSA測定を無視することはできません。 では、PSAが基準値の4・0ng/mL以下であればPSAの経過観察は不要なのでしょうか。この点について当院の患者さんで調べてみました。初診時にPSAが4・0未満で後にPSAが4・0を超えて前立腺癌と診断された患者さんが9名いました。詳細について調べると、初診時のPSAが2・0以下だった場合は、後に癌と診断されるまでに10年弱の時間を要していましたが、2・1以上4・0未満の患者さんでは2年~4年以内に前立腺癌と診断されていました。従って、前立腺肥大症等の患者さんの場合でPSAが4・0以下でも1~2年に1回程度のPSA測定は必要だと思っています。 さて、佐賀県が力を入れている鳥栖の九州国際重粒子がん治療センターが治療を開始しました。対象患者さんはリンパ節転移などを有さない前立腺限局癌患者です。つまり、この最先端の治療の恩恵を受ける患者さんは初期の前立腺癌です。 PSA測定に厳しい一方で重粒子センターの成功を掲げる佐賀県。この矛盾に気付いてほしいものです。
(理事 南里 正晴)
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