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わたしたちの主張
令和3年3月15日
引き際はいつか
 森喜朗前東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長による女性に対する不適切発言は、発言を撤回・謝罪しようと、会長を辞任し橋本聖子新会長が就任しようとも、多くの波紋を広げている。大手新聞社のアンケートでは、9割以上の人が森前会長の発言は問題だったと答えており、オリンピック・パラリンピック関係者や各界の著名人もこの発言にコメントしている。
 その中で一番的確だと思ったのは、テニスの大坂なおみ選手が全豪オープン前に記者会見で答えた内容だ。ちなみに、大坂選手はその前日にこの発言に対して尋ねられており、その時点で「自身は発言内容を把握していないので、明日もしあなたが記者会見場にまたいるならその時に尋ねてみて」と回答している。大坂選手は森前会長の発言を「いいことではない。彼のような立場にあるならば話す前に(影響を)考えるべきで、少し無知な発言だったと思う」と語り、後日、辞任すべきか問われた場面では「発言した状況が正確に読めていないので、辞任を求めるべきかは分からない。彼の周囲にいる人も、多くの人にどのような影響を与えるのかを教えてあげるべきだ」と答えている。自身の知り得た情報内で公平な視点からの意見だと思う。
 一方で、森前会長が組織委員会で大きな貢献をしてきたことや、ラグビーワールドカップ2019開催国誘致等で尽力された功績は正当に評価されるべきだと思う。また、高齢であることを老害だと年齢差別してはいけないとも思う。だが、大坂選手が言うように自身の立場と発言の影響力とを考えて、その言葉には責任を持つべきだ。
 森前会長のようにこれまでも大きな権力を持ち続けてきた人は、他人から意見され、掃かれてしまうことはまず無いだろう。無いからこそ、自身の認識は社会の基準に適しているか、用いろうとしている言葉は適当か、時にはマスコミから言葉の切り取り報道されることも踏まえ、もろもろ慎重になるべきだと思う。もしそこに乖離が生じるようであれば、その時が引き際ではないだろうか。自分を俯瞰で見られなくなると乖離は広がるばかりだ。
 今後どうなるのか分からないが、この一連の騒動から東京オリンピック・パラリンピック大会開催の是非について論じられることが多くなった。この問題は、引き際なり落としどころなりの決着が困難であろう。全ての人が納得することは難しくとも、せめて透明性の高い議論をしてほしいと願う。
   (理事 辻 京子)
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