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わたしたちの主張
平成29年2月15日

下流老人に思う

 佐賀県社会保障推進協議会(社保協)定期総会の市民公開講演会は「下流老人と貧困世代~広がる高齢者と若者の貧困~」というタイトルで行われた。講師は聖学院大学人間福祉学部客員教授の藤田孝典氏でまだ35歳の若手である。
 講演を聞きながら、下流老人について、もう少し知ってみたいとの思いで、講師の著作「下流老人」を読んでみた。副タイトルは、「一億総老後崩壊の衝撃」となっている。
著者は下流老人を「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れのある高齢者」と定義している。具体的には下流老人には3つの「ない」がある。
・収入が著しく少「ない」。OECDによれば日本は全世帯のうち16・1%(2012年)が相対的貧困とされている。高齢者の場合、一般世帯よりも相対的貧困率は高い。
・十分な貯蓄が「ない」。収入が少ないので貯蓄を崩しながら生活をするが、貯蓄もすぐに底をついてしまう。大きな病気を患ったり、介護費用が重なると瞬く間に貯蓄もなくなってしまう。高齢者の4割以上が貯蓄額500万円に満たない。
・頼れる人がい「ない」。下流老人の特徴の3つ目は、困ったときに頼れる人間が身近にいない。社会的に孤立した状態にある。ゴミ屋敷で認知症になった高齢者が発見されるという。たとえお金がなくとも楽しく豊かな老後には人間関係が必須であるのに。
著者によれば、まもなく日本の高齢者の9割が下流化するという。
さて下流化する老人が増えることを個人の責任にする風潮があるが、今の社会が持つ病理と考えるべきである。高齢者が安心して暮らせる社会保障制度を国民が作り出すことが必要である。少なくとも暮らせる皆保険制度が必要である。
 もう一つは生活保護にしても申請主義であり、貧しさが極まる前に権利として申請できるかが重要であるが、生活保護を受けることは恥と考える風潮もあり、なかなか早めに手続きをすることになっていない。また行政も、どの程度の収入なら生活保護が受けられるという周知もしていない。そのため、生活保護受給の資格があっても、実際生活保護を受けている世帯(捕捉率)は30%といわれている。ちなみにフランスは90%である。
 若者の貧困化も将来の下流老人の層を厚くする大きな要因となっている。若者が低収入であったり、閉じこもりであったりして、親がかりとなっていると親世代、子世代共倒れの危機となっている。1990年代からの失われた20数年は若者を正規職員から派遣やパートなどの不安定収入の労働形態に追いやった。そこは厚生年金も無ければ、老後への貯金も困難である。そこにブラックバイトやブラック企業も忍びよる。下流老人を少なくする根本的な対策の議論と当面の対策が必要であろう。
(常任理事 山口 宏和)

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