医師会の看護学校で泌尿器科の授業を始めて約10年になる。不思議なことに毎年、初回講義だけは居眠りする学生は皆無で、講義終了後には質問の列までできる。泌尿器科だから下ネタを駆使して学生を引き付けているわけではない。学生が興味を持っているのは「排せつケア」である。 もちろん「排せつケア」という独立した学問はない。泌尿器科の教科書にも「排せつケア」に関しての記載は乏しく、頼りない。しかし、看護学生の目の前には尿失禁で苦労している患者や介護者がたくさん存在している。そこで初回講義では教科書は横に置いて排尿管理について時間を割いて解説するようにしている。これが学生の興味の的のようだ。教科書に詳しく書いていない排尿管理は医師や先輩看護師がやっていることを見て覚えるしかない。だからその処置や対応の根拠や理由は分かっていない場合がある。時に「尿道留置カテーテルを抜く時にはカテーテルをクランプして尿意があることを確認する」、「カテーテル脇から尿が漏れるときは大きいサイズのカテーテルに替える」や「紙おむつの重ね使用」などの間違った知識を覚えてしまっていた学生もいる。 ただ、偉そうに講義をしている泌尿器科医の自分ですら理解していることが正しいのか不安になることもあった。そこで、数年前から医学雑誌や看護雑誌の排尿管理特集号を集めたり、他県の排尿管理に力を入れている団体に教えを請いに出向いたりした。排せつケアは奥が深く、これを学ぶことは興味に尽きなかった。しかし、学習のためのツールが少ないため技術や知識の習得には苦労した。 全ての医療従事者が「排せつケア」について学ぶことは必要である。佐賀でも医師だけでなく看護や介護に携わる医療従事者が簡単に「排せつケア」を学習する機会はないものかと考えていた。幸運なことに佐賀大学泌尿器科が動いてくれた。「佐賀排泄ケアネットワーク」の立ち上げである。年に2回、佐賀県内で排せつ管理セミナーを開催し、県内外の排せつケアに関するエキスパートを招いた講演会や排尿ケアの実習(オムツの正しいつけ方、尿道留置カテーテルの挿入方法など)を開催している。またホームページが充実していて、簡単な登録手続き(もちろん無料)でビデオ学習を含め、あらゆる「排せつケア」に関する最新の知識や情報を自宅でも入手することができる。 高齢化社会を迎え、「排せつケア」の知識は認知症の知識同様に重要なテーマだと思う。医師よりも若い看護師や介護士のほうが「排せつケア」の正しい情報入手に飢えている。これからの時代、「排せつケア」は経験や先輩たちからの伝達だけでできるものではないと思う。佐賀には「佐賀排泄ケアネットワーク」というすばらしい、強力な学習の手段があることをもっと広く知ってもらいたい。そして、そこで学んできた若い看護師や介護士がそれぞれの施設で最新の、正しい「排せつケア」を実践できる環境づくりが絶対に必要だと主張したい。 (理事 南里 正晴)
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