HOME » 協会新聞 » 2024年4月号

バックナンバー

 

わたしたちの主張
令和6年4月15日
「医療従事者の賃上げに思いを馳せて」

 春闘の一斉回答を迎える時期は、毎春、いつも悶々とした気持ちを堪えながら報道や記事に接する。私自身ではなく、私の医院で頑張ってくれている職員に対して「世間様ではこんなに昇給されているのに、私の医院は微々たる昇給に過ぎず申し訳ない」気持ちでいっぱいになる。そして迎えた、今年の春闘。「ベア2万円」、「年間+8・8%」、「要求満額以上の回答」などと、大手企業の軒並み+5・0%を遥かに超えるような想定を上回る大幅賃上げ回答が続出し、とんでもない規模の賃上げを目の当たりにし、改めて驚きと同時に愕然とした。
 確かに、労働者の賃上げが進み、生活が少しでも豊かになり、購買活動が活性化し、経済の好循環に繋がることはとても喜ばしい。また昨今、政府が強力に推し進める賃上げ政策が功を奏しているともいえよう。しかしこのような状況が可能なのは、あくまでもサービスや商品に価格転嫁が可能な産業に限られるのではなかろうか。私たち医療従事者や介護事業者などのいわゆる公定価格で仕事を行う分野の労働者に目を向けたとき、この賃上げの波から完全に取り残されるのは必至だろう。そもそも価格の自主決定権がある産業と価格決定ができない医療介護業界の賃上げの足並みを揃えるということ自体ナンセンスである。
 今春の診療報酬・介護報酬の改定においても、診療報酬+0・88%、介護報酬+1・59%に留まる。近年の急速な物価高により、診療資材や医薬品、その他の備品購入費の他、電気通信費や光熱水費は急騰し、利益率は下がり続ける一方である。この改定率では、政府がいう「医療介護従事者の賃上げ相当分」には程遠く、「物価高による減益分の補填」にすらならない。事業収入の原資である公定価格(診療報酬、介護報酬)が引き上げられなければ、人件費の思い切った賃上げは困難であり、給与水準は上がらない。経済界が目指す+5・0%の賃上げなど不可能に近く、政府が提唱する+2・0~2・5%の賃上げすら難しい。
 とはいえ、世間の賃上げ幅から比べると非常に少ないながらも、各医療機関や施設の長は、職員のために何とか賃上げを行っているのが現実ではなかろうか。幸いにも、今春改定では初再診料と入院料の基本診療料の引き上げに加えて、賃上げ充当分の「ベースアップ評価料」が新設されたが、算定するか否かに関しては大きな経営判断を迫られそうだ(厚労省ホームページ「ベースアップ評価料計算支援ツール」で、各施設の加算に伴う増点シミュレーションが可能)。
 私は、以下のことで算定すべきかで頭を悩ませている。この加算で、政府が求める賃上げ率分の収入が確保できるのか。また、1度ベースアップを行えば、万一、将来的にこの加算が廃止された場合でも、現実的には減給できず、賃上げした給与額を維持しないといけなくなる。
 少子高齢化に伴い、全産業において人材不足が深刻化している。大手企業の大幅な賃上げに、中小企業がどの程度追従できるかが中小企業での人材確保の鍵になるなどと「人材確保の厳しさ」が話題になる。一般企業で賃上げが進むことは、医療介護関係の人材確保においては、中小企業の比にならないほどの厳しさを加速させる。簡単には解決できない大きな問題であるが、医療介護従事者の「人に寄り添う情熱」を保てるような労働環境を目指したい。
 その半面、実現のためには、窓口負担額や保険料の負担が大きく圧し掛かることになるため、国民の健康を守る立場としてはジレンマに苛まれている。 
(常任理事 梅津 健太郎)

●お問い合わせ ●リンク