PSAとは前立腺特異抗原のことで前立腺がんの腫瘍マーカーである。一般的に基準値は4・0ng/mL以下とされている。とても有名で優秀な腫瘍マーカーだが、時に医者や患者さんを悩ませることがある。
私の主張は「PSAを測定することはとても重要。ただしPSAの異常値が意味することを個々の患者さんに応じて考え、説明し、必要があれば検査計画を立てる。これができるのが泌尿器科医である」ということだ。
患者さんはPSA値が高いと不安になり、下げる方法を尋ねてくる。血糖値やコレステロール値と同じようなイメージを持っているようだ。PSAは前立腺内で産生される精液を液状化するタンパクであり、正常の前立腺細胞もがん細胞も分泌する量はほぼ同じである。
ただ前立腺がん細胞が分泌するPSAは構造的に正常前立腺細胞が分泌するPSAよりも血中に漏出しやすいだけである。だからがんが無くても肥大があればPSAは高値になるし、炎症があれば高値になる。がん以外の理由で高値になる原因は他にもたくさんある。PSAが4・0以上で不安を抱える患者さんにはPSAの意味を十分説明しなければならない。
逆に悪性度が非常に高い前立腺がん細胞はPSAを分泌しないことがあり、PSAが低いまま進行していく前立腺がんもある。つまりPSAは万能ではないのだ。
PSAは年齢と共に上昇することが知られている。だから基準値も年齢別に決める(年齢階層別カットオフ値)ことも推奨されている。85歳でPSAが4・1ng/mLの患者さんに不要な心配をかけてはいけないし、人間ドック健診でPSAが1・0ng/mL以上だった40歳の人には十分な注意を促す必要がある。
以前、厚労省研究班が前立腺がん検診は前立腺がん死亡率に寄与しないため住民検診としては推奨しないと発表し、日本泌尿器科学会はすぐさまこれに反論の声明を出した。いずれの意見も海外の大規模研究から出たデータでの論争だった。私はどちらの意見が正しい、間違っているとはここでは言わないが患者さんやかかりつけ医がPSAを不要だと誤解されてしまうと困る。
私たち開業医は目の前の一人一人の患者さんに必要があると判断すればPSAを測定し、その結果を個々の患者さんに対して解釈し指導する必要がある。患者さんへ余計な心配をかけてもいけないし、不必要な検査はなるべく避けなければならない。
「PSAは4・0」という安易なものではないので、PSAの解釈は専門医である泌尿器科医の大きな役割だと考える。肝がんに隠れているが、佐賀県は前立腺がん死亡率が全国でも10 5位以内を毎年キープしている。だから佐賀県において前立腺がん検診は重要であり、排尿障害の治療を行っているかかりつけ医は一度はPSAを測定する必要がある。そしてPSAが4・0ng/mLであれば泌尿器科医へコンサルトすることが大切だと思う。
(理事 南里 正晴)
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