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わたしたちの主張
平成26年3月15日

患者の心

 先日、青葉の会の会長がお見えになり、少々話し込みました。青葉の会の正式名称は「NPO法人がんを学ぶ青葉の会」といい、がんサバイバーの会です。がんサバイバーとは自身ががんになりがんと闘い、あるいはがんを克服した人たちの会です。
 会長の松尾倶子さんは50歳の時にスキルス胃がんにかかり、余命5カ月と宣告されました。19年前のことです。初めは落ち込んでしまった松尾さんですが「死んでたまるか」と自身を奮い起こし、胃亜全摘胆嚢脾臓合併切除という大手術を受けられました。術後抜糸までに壮絶なリハビリを自身に課した武勇伝をお持ちです。理由は、自然治癒力で手術の傷を治したかったからと言われます。そういう松尾さんを見て、余命5カ月の宣告をした先生も彼女の病気と闘う姿に心打たれ、自然治癒力による傷口のきれいさを称えられ、松尾さんもその先生へのわだかまりが消えたそうです。今もその先生の元へ年一回は検診に通っているそうです。
 ここで質問です。先生方はがんの告知をする時に、あるいは難病や治りの悪い病気の患者さんを診るときに「患者の気持ち」というものを考えておられるでしょうか。またその後のフォローをされておりますでしょうか。最初は余命宣告をした医者を「こんちくしょう」と思った患者。「見返してやろう」と奮い立った患者。そしてその気持ちを察して反省し、患者の信頼を取り戻すための努力をされた先生。そしてそこに生まれた信頼関係。患者の心を察してこそ本当の医療であるという真実がそこにはあります。
 松尾さんは東北の出身で、先の大震災で姪が津波に流され行方不明になりました。ようやく見つかり救い出されたものの、ショックのため失語症になったそうです。そういう時の励ましの言葉は患者を傷つけこそすれ、病状の改善には結び付きません。医療スタッフはそういう彼女を温かく見守っていたそうです。そういうさなか祖母が亡くなり、孫代表で誰か喋るように言われた時、その失語症になった彼女が手を上げたそうです。まだリハビリ中で十分に言葉が喋れないその子が、弔辞を読むと手を上げたのです。病気は心との戦いでもあります。弔辞を読むことでその子がいきなり喋れるようになった訳ではありませんが、そういう祖母に対する愛情、周囲の暖かい見守りが奇跡を起こしたことは論を待ちません。
 医者の言葉一つで、それまで元気にしていたがんの患者さんがみるみる悪くなってきたのを何人も見ています。その逆もあるのでしょうが、圧倒的に数が少ないようです。言葉には魂があります。言霊といいます。患者の気持ち、家族の気持ちに寄り添う医療をよろしくお願いします。
                                                                (理事 猪口 寛)

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