2014年の歯科医師総数は10万3972人、そのうち医療施設従事者数は10万965人で、人口10万対歯科医師数は81・8人である(厚生労働省「医科・歯科医師・薬剤師調査」)。1970年の人口10万対歯科医師数が35・2人であったので、大幅に増加しているといえる。単純に考えると、1医院あたりの来院患者数は必然的に減少するので収入は下がる。 歯科医療の大部分は公的医療保険制度の下で行われている。 良質な歯科医療を国民に提供するためには、十分な時間的余裕をもって安心して患者中心の治療を行える環境が必要であり、そのための基盤整備として歯科医師が安定した歯科医院経営を行えることが重要である。 しかし、少ない来院患者数と低い技術評価の診療報酬制度の中での診療は、経済的に不安定な歯科医院経営を余儀なくされ、新しい技術・機材の導入、優秀なスタッフの確保などを困難にし、より良質な歯科医療サービスの提供を阻害することになっている。 国民の歯科医療は開業歯科医師が担っているといっても過言ではない。安心・安全で良質な歯科医療提供には、歯科医院の経営基盤安定が必要不可欠であり、その大前提に立てば、経営安定をもたらす健全なる診療報酬体系の再構築が必要不可欠であることは、言うまでもない。だが、国民皆保険を堅持する立場からいえば、歯科医師が増えれば歯科医療費の総枠拡大が不可避となる。政府が社会保障費の削減を推し進めている現状で、現在の歯科医師の数量的な供給状態は、その環境に重大な支障をもたらすほど過多であり、なんらかの需給バランスの調整が必要である。ならば、まず歯科医師数の削減は必要不可欠であろう。 歯科医師過多に加えてう蝕が減ってきている影響もあり、世間的にワーキングプアのイメージが強いのか、近年歯科を志す若者の減少が顕著となっている。大学歯学部・歯科大学の定員割れという事態が発生し、図らずも異なる形で入学者の削減がなされる状況 となった。結果、競争倍率が2倍を下回る大学が続出し、入学試験に選抜機能がなくなったと言われ、歯学部学生の「質」の低下という懸念が大きな問題となり、「歯科医師需給問題」は新たな局面に入った。 国家試験合格率の低さも歯科医師不人気の理由の一つであろう。「数」の改善に取り組むことには是としながらも、国家試験は資格試験であり、選抜試験であってはならない。 今後、歯科医療は超高齢化社会に向けて大きな役割を果たしていかなければならない。にもかかわらず、大学の定員割れ等の事態は危機的状況と捉えなければならない。従来の「数」の削減と共に、「質」の確保といった側面で新たに考えていくべきである。 (理事 藤瀬 恭平)
|