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わたしたちの主張
令和3年7月15日
アデュカヌマブ、アルツハイマー病(AD)治療薬について
 過去多くの世界の製薬メーカーが莫大な研究費と時間をかけても、成し遂げることができなかった認知症の薬が条件付きとはいえ、待ちに待った許可が下りました(迅速承認)。しかも日本のエーザイ株式会社やアメリカのバイオジェンによる共同開発・製品化とのこと。この新薬は根治薬というより病気の進行を変える力を持っている疾患修飾薬と言われています。
 これまで認知症に関しては対症療法薬しかなかったが、この新薬により一歩前進したと考えられます。臨床試験ではアミロイドβプラークを59~71%減らし、認知機能の低下も有意に抑制したのがこれまでの薬と異なる点です。従ってアミロイドβが蓄積される前にできるだけ早期発見・早期治療が必要となります。そのためこの薬を使用するには認知症と診断されてからでは遅く、認知症の中期や重症時期の投薬は効果が望めず、軽度認知障害(MCI)の時期から使用する必要があります。
 つい最近まで創薬が非常に困難なため、Lancetでは認知症の予防・介入・ケアに関して12個の改善可能なリスク要因を特定しました。具体的には、児童期の教育、中高年の難聴・高血圧・肥満・外傷性脳損傷・過剰なアルコール消費、老年期の喫煙・鬱・身体不活動・社会的孤立・糖尿病・大気汚染への暴露です。最近では心房細動も記載されています。認知症、特にアルツハイマー病(AD)発症より20数年前より脳内にアミロイドβやタウなどの脳内異物の蓄積により神経細胞の壊死を認め、発症を来すと言われており、最近では40代等の早い時期の高血圧や糖尿病などの、生活習慣病のコントロールの重要性が指摘されています。
 しかし働き盛りで無症状のために放置され、治療が十分に行き渡っていないのが現状です。今回の迅速承認に関して、米国の食品医療品局(FDA)に助言する多くの諮問委員が承認しなかった薬が承認された例は過去にないとの事で、追加の治験の条件付きとのこと。だが、わらにもすがる家族にとっては一筋の光が差し込み、認知症の治療の新たな扉を開く第一歩とならんことを期待します。
 ところが問題点もあるようです。1つ目は4週に1度の点滴治療で年間日本円で約610万円と高額であること。MCIから軽度ADまで国内で約500万人と推計。しかも高齢になるに従い増加しています。公的医療保険は大丈夫か、何らかの適正使用のガイドラインは必要でしょう。2つ目は副作用でアミロイド関連画像異常(ARIA)と呼ばれる脳内の浮腫や微小出血が出やすいこと。3つ目は生活習慣病や頭部外傷など多様による認知症など種々あり、アミロイド仮説だけでいいのか。タウ蛋白にはどうか。日本では申請中でまだ認可はされていません。
 けれどもこの薬が、ADが治る可能性のある病気のトップランナーとして、また新しい技術や新知見を基に、後に続く薬が出現し価格も低下し、より質の高い薬ができることを私やAD自身、および周囲の関係者の方々と共に切に希望いたします。それと同時に、われわれもこの薬を十分に使いこなすためには、MCIについての学習が必要でしょう。それと共に、重要なのは、中高年の生活習慣病の啓発もさることながら、いかにして治療を継続していただくかが鍵となるでしょう。
        (清少)
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