その痛みは本当に「痛い」のか?
意外と思われるかもしれませんが、私たち泌尿器科医も痛みの治療をすることが多くあります。代表的なのが尿管結石の痛みです。3大激痛のひとつだとか、七転八倒の痛さなどと表現される痛みなので迅速な対応が必要です。だから泌尿器科医は鎮痛薬の使用に慣れているだけではなく、結石痛を一瞬で止める「腎兪(じんゆ)」や「志室(ししつ)」といったツボのことまでも知っています。結石痛以外でも、佐賀県における死亡率の高さで評判が悪い前立腺癌は、進行すると骨転移が出現するので癌性疼痛の管理も日常的に行っています。
そんな疼痛管理に慣れた泌尿器科医を悩ませるのが、原因がよく分からない骨盤内や陰部の痛みです。女性だと膀胱炎、男性だと慢性前立腺炎や精巣上体炎だと診断するのですが抗菌薬や鎮痛薬を処方しても効果が無く、漢方薬などを駆使しても改善は乏しく、苦痛な表情の患者さんを前に生活指導と励ましの言葉で終わってしまうこともあります。
私は25年前から「間質性膀胱炎/膀胱痛症候群」という謎の膀胱痛の診断と治療の研究を続けているので、毎日のように原因不明の治らない膀胱痛の患者さんに会います。少し専門的になるのですが、膀胱内に明らかな所見がある間質性膀胱炎は免疫系の異常であることが解明され、治療薬の開発が急速に進んでいます。
一方で膀胱痛症候群は多彩な原因が考えられ、現在でも対応方法が確立していません。かつては「本当に痛いのかな? 心因性かも?」と思い、精神科や心療内科へ患者さんを紹介することもありました。
ところが痛みについて勉強しなおすと、2017年から国際疼痛学会で「心因性疼痛」という用語が廃止になり、「痛覚変調性疼痛(nociplasitc pain)」に変更されていることを知りました。一般的な痛みである「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」に並ぶ第3の痛みとして定義されています。
さらに精神科領域では医学的に説明ができない身体的な苦痛を「身体表現性障害」と定義していたのが2015年から「身体症状症および関連症群」に変更されており、膀胱痛症候群のような原因不明の疼痛があれば〝身体症状症、疼痛が主症状のもの〟に分類され、この痛みこそが痛覚変調性疼痛だと解説されていました。泌尿器科領域以外では線維筋痛症や原因不明の腰痛などが該当する疾患のようなのでご存じだった先生も多いと思いますが、自分の不勉強を反省しました。
用語が変更になっても治療が難しいことに変わりはありません。先日、患者さんを「痛覚変調疼痛」の治療を専門的に行っている九州大学病院の集学的痛みセンターへ紹介したところ、初回受診まで半年待ちとのことでした。
原因不明の患者さんの痛みを簡単に「精神的なもの」と決めつけずに、他の疼痛管理と同じように科学的に、医学的に真摯に向き合うことが必要だということを改めて認識したということが今回の私の主張(反省)です。
(理事 南里 正晴)