HOME » 協会新聞 » 2025年10月号 わたしの主張

忍び寄る医療介護の危機

 医療介護の現場における財政的人的危機が話題に取り上げられて久しい。最近では、コロナ禍前の2019年に過去3番目となる45件の倒産(負債1000万円以上の医療機関)と543件の休廃業・解散が発生した。翌2020年にはコロナ禍での事業者支援などもあり一旦倒産は27件に減少した。しかし2021年からまた増加に転じ、2024年には64件の倒産と722件の休廃業解散があり過去最多を更新した(帝国データバンク2025年1月22日発表)。
 倒産した医療機関の6割以上が収入減を主因にあげ、人件費や材料費の増大と消費税10%問題、患者減、コロナ関連融資の返済開始、医科歯科診療所レベルでは院長の高齢化や後継者不足等々、医療機関を取り巻く環境は年々厳しさを増している。
 診療報酬は2年に1回改定されるが、毎回2~3%位の微々たるもので、物価材料費や人件費などの上昇を補填するにはあまりに低い。公定価格なので、収入が逼迫するのも当然の結果である。
 ところで、最近の国政選挙での与党敗北を受けて自民党総裁選挙が行われたが、石破総理も5名の総裁候補も消費税減税には口をつぐんでいた。消費税が前のように5%になれば、材料費も物価も下がり医療機関も助かるのだが、自民党は「消費税は社会保障の本幹で、減税できない」と主張する。国民も「そうなんだ」と納得しているかのように見えるが、果たしてそうだろうか。
 元静岡大学教授で税理士の湖東京至氏の論文「消費税は社会保障に使われていない」(東京保険医新聞2025年5月25日号)によると、消費税が8%から10%になった2018年と2020年を比較すると社会保障給付は121・5兆円から126・8兆円と5・3兆円増えているが、消費税などの公費負担は共に50・4兆円と全く同じ額である。代わりに社会保険料と窓口負担料等の国民負担増と過去に蓄えた余剰金とで賄われたとのこと。自民党が「消費税は減税できない」という本音は、国が消費税で潤い、また輸出大企業は還付金で潤っているためである(湖東氏)。
 輸出企業には消費税分がそっくり還付されるため、2021年4月から2022年3月の事業年度1年で、トヨタ自動車6003億円、本田技研工業1795億円、日産自動車1518億円、マツダ1042億円、デンソー918億円等々(湖東氏講演から)が還付されたとのこと。
 国民の医療介護より輸出大企業や国が潤うのを優先する姿勢こそ厳しく糾弾されるべきではないだろうか。 
(顧問 野田 芳隆)

※この記事は10月10日時点の情報を基に執筆したものです。(事務局)

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