膵臓癌と尾道方式
数年前、特に懇意にしていた茶道部後輩から 「糖尿病らしいが急に血糖値が上がってきた」との連絡を受け、飲み過ぎや食べ過ぎがたたったのだろうと安易に考えていたら「膵臓癌で手術するようになった」と後日連絡がありました。
膵臓癌は腹部臓器の癌の中でも最も予後不良の癌で、診断がついた段階で手術が出来る頻度はわずか20%程度で再発率も高いです。かつて、 2010年には5年生存率が6%で私や他の医師が受け持った膵臓癌の患者さんはほとんど1年以内で亡くなられたので、彼ともお別れかと一抹の寂しさを感じていました。
膵臓癌は最近では肝臓がんと同様に、困難ではあるが早期診断には効果的な囲みこみ(バイオマーカー等々)が「尾道方式」として広く用いられています。尾道方式には①50歳以上で糖尿病を発症した患者 ②コントロール不良患者(誘引なき) ③腫瘍マーカー高値(CEA,CA19-9) ④腹
部エコーで主膵管拡張(2・5㎜以上)や膵嚢胞(5㎜以上)/IPMN ⑤遺伝性膵癌症候群(膵癌家族歴) ⑥他精査中の画像で見られた膵画像異常 ⑦原因不明の腹痛などのチェック項目があります。非アルコール性急性膵炎などで通常型膵癌の10㎜以内のステージ0の5年生存率は80・4%で、10㎜以下を見つけることを目指したいとのことですが、実現すれば予後の改善に寄与する可能性がありそうです。
私の後輩は膵臓の単純CT撮影では発見されず造影CTにて11㎜で発見され、 同時に血液検査でも同様の所見で診断後直ちに某大学病院で治療を受けました。術後5年を経て、転移無く安堵いたしました。実に尾道市の膵臓癌患者の5年生存率は全国平均の約3倍となる20%を達成しているとのことです。
国立がんセンターの報告では膵臓癌の10年生存率の推移は2018年は5%、2020年で6・2%と着実に伸びていますが安心はできません。 このようにわれわれ外来の医師でも早期膵臓癌発見の取り掛かりのヒントがあり、 いかに専門病院と早期に連携するかが鍵になりそうです。
膵臓癌の早期診断に貢献している「尾道方式」は全国的に注目されています。この機会にぜひ佐賀でもご講演いただき実践することで、少しでも膵臓癌死を減らしましょう。
(常任理事 古賀 聖祥)