代表的な泌尿器科疾患である前立腺肥大症、過活動膀胱、膀胱炎などはコモンディジーズであり、かかりつけ医の先生方が日常的に診断し、治療をしていると思います。では泌尿器科専門医は何をしているのでしょうか。
そもそも本邦の泌尿器科の歴史は、東京帝国大学外科に入局した土肥慶蔵先生が外科技術習得のためにドイツ留学に出た途端、帝国大学皮膚科教授が亡くなったことから急遽後任となるためにウィーン大学で皮膚科学と梅毒学、さらにパリ大学に寄って梅毒の治療に必要な泌尿器科学を学び、1898年に帰国し皮膚病梅毒学講座を発足したことが始まりです。それまでは泌尿器科疾患は内科と外科の一部でした。
現在、泌尿器科疾患には優れた治療薬が豊富にあります。しかし前立腺肥大症にαブロッカーを処方しても効果が乏しい場合は、泌尿器科医にご相談ください。さまざまな薬の併用療法をご紹介できますし、必要があれば手術も行います。現在は数日の入院期間で治療が可能な、レーザーを使った低侵襲手術もできます。PSAを測定して基準値以上だった場合には、ご遠慮なく泌尿器科へご紹介ください。
ご存じではない先生方もいるかもしれませんが、佐賀県の前立腺がん死亡率は全国トップクラスです。
過活動膀胱による切迫性尿失禁が良くならない場合、泌尿器科医は薬物療法の併用療法の他にボツリヌス毒素の膀胱壁内注入療法もできます。排尿障害の原因が分からなければ、物理の実験のような尿流動体検査もします。その結果で脳脊髄神経疾患の存在が分かることがあります。
咳やくしゃみで尿が漏れる女性にはTVTやTOTと言う名前の短期間の入院でも可能な手術があります。腟から臓器が出てくる骨盤臓器脱にも対応します。症状は激しいのに抗菌薬が効かない膀胱炎の患者さんは、間質性膀胱炎という難病に指定されている疾患かもしれません。難治性の過活動膀胱や膀胱炎が実は膀胱癌だったということもあります。
どんなに検査をしても原因が分からない倦怠感を訴える中年男性が、LOH症候群という男性ホルモンの低下が原因ということもあります。夜間頻尿も「歳のせい」で済まさずに泌尿器科にご相談ください。厳しい適応基準がありますが抗利尿ホルモン薬を使うこともあります。その泌尿器科の規模にもよりますが、主に排尿に関する困ったに対する幅広い知識と技術を持っているのが泌尿器科専門医です。
表題の「みなさまの泌尿器科」は第2代佐賀大学泌尿器科教授が当時の医局員へ言い放った言葉です。「各診療科の困ったことに対応できる知識や技術があるのだから、他科からコンサルトを受けた時は快く引き受けなさい」というメッセージでした。
現在の泌尿器科領域は、薬物療法だけでなく手術療法も含め進化を続けています。お近くの泌尿器科専門医はかかりつけ医の先生方の強い味方にきっとなることができます。ご遠慮なく近くの泌尿器科医へご相談ください。
(理事 南里 正晴)
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