HOME » 協会新聞 » 2025年6月号 わたしの主張

「退職代行業者の台頭 」

 ここ数年で急速に台頭してきた「退職代行」。恥ずかしながら、当院でもその第1号が出てしまいました。
 業界最大手の「退職代行モームリ」によると、2024年度新卒者の依頼が1年間で1814人、さらに2025年は4月7日時点(1週間)での依頼者数が新卒42人(全体267人)と、過去最高のペースで増加しているそうです。
 元々は、ブラック企業から抜け出したいのに自分から退職を切り出せない、退職を申し入れると不当な取り扱いを受けるなど、主に会社側に問題がある場合に労働者を守ることを目的として生まれた、いわゆる「救済サービス」だったはずです。
 しかしながら、最近の依頼理由の傾向を見ると、「思っていたのと違った」という双方のミスマッチによるものから、「飲み会や朝礼が嫌」といった時代の変遷を感じてしまうものなど、本人都合の事例も増えているようです。また、中には「勤務中のSNS(私用)チェックが禁止だった」「社食がおいしくなかった」といった、冗談かと思えるようなものも。
 私が実際に代行を使われた時の感想としては、やはり最初は突然のことに驚きました。しかし、その後の手続きに関しては、お互い気まずい中で本人とやり取りをする必要もなく、事務手続きは淡々と進むなど、正直なところ、急に音信不通になられたり、これもはやりの「静かな退職(意欲もなく、辞めるでもなく、ただ給与のために仕方なく居るだけ)」を続けられるよりは、はるかに助かるな、とも感じました。
 現状、インターネット等では「退職願いぐらい自分で出すべき」「引き継ぎもせずに無責任」との批判的な意見の方が多く見受けられます。しかし、現実としてこれらの需要が年々増加し続けている以上、雇用側も受け止め方を考えておく必要がありそうです。
 とはいえ、代行サービスの台頭により、若者があと少しで乗り越えられたはずのハードルが必要以上に下がってしまうことは、本人にとっても社会にとっても憂慮すべきことです。自身で乗り越える力や知恵を身に付けるより先にサービスの手軽さを知ってしまった新卒者が、次のハードルを立派に超えていけるのかと言えば、おそらく、逆に難易度は増していくことでしょう。
 最近は顧客獲得のために、退職を考えてもいない層にまで勧誘をかける会社が出てきたり、逆に退職を引き留める代行会社の話も出てきたりして、もともとの「救済サービス」の体を失い、「不安マーケティング」の様相を見せています。
 退職代行サービスが一定の困っている人たちを救っているのは事実だと思います。ただ一方で、安易にそれを利用した結果、その先でよりハードな局面を迎える羽目になった人たちに対して見ぬフリをせずに、この人手不足、経済低迷の日本において、本当の意味で雇用環境の潤滑油になるような理念を持って活動してくれることを願います。

  (理事 古庄 龍央)

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