東京オリンピック開催を目前にしながらも、新型コロナウイルスが猛威を振るい、感染者が拡大し続けている。さらに、感染力を増し、若年者に重症化を招く変異株も広がりを見せ、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置も全国各地に発出され、国民生活や日本経済に暗い影を落とし続けている。
現下のコロナ禍において、感染拡大を食い止める切り札として、ワクチン接種は非常に重要となる。政府は、ワクチン接種の目標人数を「1日100万人」と声高に叫び、接種を加速させ、早い時期に完了させようとしている。しかし、高齢者へのワクチン接種が開始されたが、2月から始まった医療従事者への優先接種すらも完遂には至っていない。この大幅に遅れている大きな要因の1つが、ワクチン接種を担う医師や看護師をはじめとする「打ち手」不足である。そこで、白羽の矢が立ったのが、私たち歯科医師である。
ゴールデンウィーク前に、菅義偉首相は自民党の島村大参院議員(歯科医師)と会談し、歯科医師によるワクチン接種に関する意見交換を行った。また、同時期に河野太郎ワクチン接種担当相も民放のテレビ番組内で、歯科医師によるワクチン接種に関して言及している。政府内にも、明らかな「打ち手」不足は喫緊の課題となっているのが明白で、早々に歯科医師によるワクチン接種を特例として認めた。
5月18日には、神奈川県大和市の高齢者に対する集団接種で国内初めてとなる歯科医師によるワクチン接種が行われた。これを皮切りに、鳥取県、山口県防府市、山梨県笛吹市、兵庫県神戸市などでは今後の集団接種に際して歯科医師によるワクチン接種を早々に決めた。また、広島大学病院では、学部、附属病院所属の歯科医師を接種会場に派遣する方針を決めている。また、5月21日には、小池百合子東京都知事は、日本歯科医師会の堀憲郎会長と会談し、ワクチン接種への歯科医師の協力を要請している。
以下は、私の私見であるが、歯科医師によるワクチン接種は大いに大賛成である。歯学部教育では、頭頸部のみではなく全身の系統解剖も座学と実習で網羅的に学んでおり、さらに口腔外科や歯科麻酔科では静脈注射、皮下・筋肉内注射に関して実技も含めて研修を受けている。従って、私たち歯科医師が安全に筋注を行うことは決して困難ではない。加えて、日々の歯科診療で毎日数十回、口腔内に麻酔注射を行っているため、注射に関しては非常に慣れていると言っても過言ではない。
私たち歯科医師も、わが国の医療を担う医療従事者の一員として、一刻も早いコロナ禍の終息に貢献できれば幸いである。
(常任理事 梅津 健太郎)
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