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わたしたちの主張
平成24年9月15日

 がんを見つめて

 がんは国民の2人に1人が罹患し、3人に1人の死因となっている。今日では、最も身近で、ポピュラーな疾患といえる。
 がんは遺伝子の病気である。遺伝子の本体であるDNAが障害を受け、遺伝子の機能異常となり、がん発生に進んでいくとされる。先天的な原因も後天的な原因も考えられる。
  がんの臨床にかかわってきた経験と蒐集した文献により、がんの一次予防について書いてみたい。

Ⅰ がんは感染症である
 1、ヘリコバクター・ピロリ菌の胃への持続的な感染が胃がん(分化型腺癌)発症に関与している。
 ピロリ菌の感染があれば除菌を行うと、がんの発生は抑えられる。胃粘膜の萎縮が進んでいない30代までに除菌すると、ほぼ100%がんにならない。
 ピロリ菌感染の有無は、胃粘膜の組織片、血液、尿、便、呼気中の尿素などの検体で測定される。それぞれの測定法に偽陰性も見られることから、1つの検体で陰性であっても、別の検体で測定すべきと考えられる。
 胃がん(分化型腺癌)の発生母地は、萎縮性胃炎である。血液中のペプシノゲン濃度で胃粘膜の萎縮の程度を表し、これとピロリ菌感染の有無とを組み合わせて、検診の対象者を絞り込んでの胃がんの検診が行われている。全国の自治体の3割程度で実施や実施の検討がされている。
 また10~20代の人口のヘリコバクター・ピロリ菌の感染率は10~20%以下ともいわれ、その世代が癌年令となる頃は、胃がんの発生も低くなることが予想されている。
  2、ウイルス感染症に起因する肝がん
 肝がんの8割はC型肝炎ウイルス、1割はB型肝炎ウイルスの持続感染に起因する。従って肝がんの予防は、それらのウイルスに感染していない人は感染を防ぐこと、既に感染している人は、発がんを抑えることとなる。
 B型肝炎ウイルス感染防止には、ワクチンと免疫グロブリン併用で著しい効果を得ている。さらにこれを進めて全ての出生児にワクチンを接種するユニバーサルワクチネーション(UV)の導入が待たれる。
 C型肝炎ウイルスについてもインターフェロンを中心とする薬物療法が進み、C型肝炎ウイルスの駆除率は向上し、発がん抑制効果も著しく進んできた。C型肝炎ウイルス駆除も期待できると言われている。
  3、ヒトパピローマウイルス感染症としての子宮頸癌
 日本は、アメリカに比べワクチンの利用が少ないと言われているが、ヒトパピローマウイルスのワクチンでの感染予防の体制が作られている。

Ⅱ 生活習慣病としてのがんの予防
 1、「たばこを無くせば、がんの3分の1は減る」と言われる。
 たばこは、多くの臓器の発がんに関与している。さらに喫煙者本人だけでなく、副流煙は、同居者などの発がん率を高めている。
  2、食生活とがん
 がんの予防効果が証明されたサプリメントは存在しない。むしろサプリメント摂取で、特定の成分を取りすぎることがないように注意が必要とされる。
 野菜、果物、食物繊維などは発がんのリスクを下げると言われており、不足にならないようにする。
 嗜好品のお茶、コーヒー、ワイン等も適量であれば発がんのリスクを下げると言われる。
 塩分を含む食品の摂取量が多い程胃がんになりやすい。1日当たりの塩分摂取量は、漬物などに慣れている日本人には非常に薄味である。

 がんは診断がついた最初の時から病名告知や病状告知(病期、合併症、予後など)をするようになった。また、がんの治療は医師が一方的に決めるのではなく、患者や家族とも協議し治療法を選択するようになった。これらのことは、一つは、がんについて医療の進歩により、臨床的にがんが解明・克服されてきているからだろう。
  ここ10年程のがんの診断や治療の進歩は素晴らしいものである。診断の進歩による早期がんの発見は、治癒率100%のものも見られる。治療でも治癒に至る医療やサポート体制ができている。手術法、化学療法、薬物療法、放射線療法など、画期的な手技や技術が開発され、治癒率が飛躍的に向上している。「がんは治る」とも言われる。実際、全がんで6割以上治っているとされる。
  がんの診断学、治療学は成熟期になりつつあるのではないだろうか。
  がんの告知(病名告知、病状告知)がなされ、治療についても患者本人と、時には家族とも協議して治療法を選択するようになったもう一つの理由は、医師と患者は対等であるとの認識であろう。もともと、医師と患者は人間的、社会的に対等であり、これは医療にかかわる場合でも変わらない。医師と患者は対等であり、対等であるためにがんの告知もし、治療について協議もするのである。こう認識した上で、医師はがんの専門家なので患者より強い立場にあり、患者はより弱い立場にいると心していなければならないと思っている。
 
 (理事 古賀 俊六)

 

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