HOME » 協会新聞 » 201004所得格差拡大と税制

バックナンバー

 

わたしたちの主張
平成22年4月15日

 所得格差拡大と税制


 税金や社会保障による所得再分配機能により低所得者層の生活改善が行われると思っていたのであるが、近年の日本においてはどうも違うようである。

 そこでこのような『所得格差拡大と税制』という自分にとって難しいタイトルを敢えて掲げ、経済や税制に関して全くのど素人の自分が勉強しようということでありますから、「せっかく読んだのに得るものがなかった」という結果になりました時にはお許しください。

 OECDが二〇〇六年に発表した日本経済の審査報告書によると、日本の勤労者層における所得格差や相対的貧困率はOECD平均よりも高い水準にあり、特に相対的貧困率はデータの存在する十七か国中でアメリカに次いで高くなっている。ところが税や社会保障による再分配前の所得である市場所得で計算した貧困率だと、日本は十一番目ということである。つまり税や社会保障による貧困率の改善効果が、他のOECD加盟国に比べて大変少ないのである。

 この原因は何処にあるのであろうか。所得税の最高税率が引き下げられ、累進課税が緩和されたこと。消費税の創設と税率の引き上げ。法人税率の引き下げ。住民税、所得税の定率減税の廃止や各種控除の廃止。などが主な原因のようである。

 家計部門の税負担は一九八〇年を百とすると〇九年度は百十一に増加しているが、逆に企業負担は六十六に減少している。消費税・タバコ税・酒税・ガソリン税などの消費課税率の増加は低所得者の税負担率を上昇させるという大きな逆進性を持っているし、逆に個人所得課税の累進性構造の緩和は税の再分配機能を弱めてしまう。また低所得世帯においては税よりも社会保険料の負担が大きい場合が多く、所得再分配が機能しているとは言い難い。

 個人所得課税の累進性の緩和によって、二千万円超の所得者層におよそ六千九百億円が減税された。配当課税も株式譲渡益課税も一〇%に優遇されており、証券優遇税制により年間一兆円が減税されている。〇六年度に申告された株式譲渡所得の総額は二・二兆円であるが、このうち一・四兆円は所得一億円超の納税者であるから、大富裕層優遇税であることは明らかである。

 法人税は年間で四兆円の減税である。現在日本の理論上の実効税率は約四〇%であるが、税額控除などを含めた「調整後実効税率」は、トヨタ自動車二八%、NTTドコモ二七・五%、キャノン三三・二%などかなり低い値である。それにもかかわらず財界は実効税率を盾に、諸外国と比べて高いといって更なる引き下げを要求している。

 このような大企業や大資産家・富裕層への減税は、最近の十年間に行われただけでも大企業に年間五兆円、富裕層に二兆円、年間で合計七兆円以上である。その一方で庶民向けの税制では所得税・住民税の定率減税の廃止や各種控除の廃止によって、年間六兆円もの増税となっている。富裕層には減税、一般庶民には増税であり、しかも社会保険料の負担割合が大きいために格差が広がってしまうのである。

 このまま消費税を増税させるとますます格差が広がり、生活保護レベル以下での生活を余儀なくされる低所得層が増大してしまう。貧困層が増加すると悪質な犯罪が増加し、社会の秩序が失われる。応能負担の原則と再分配機能が十分に作用する税制が行われることが、全ての国民に必要なのである。

  (会長 藤戸 好典)

 

●お問い合わせ ●リンク