HOME » 協会新聞 » 2026年4月号 わたしの主張

医療費抑制と対局の "ベースアップ"

 低金利政策により失われた30年、東京一極集中で不動産価格は上昇、NISAによる税制優遇を背景に株価も上昇、株主配当の増加などにより富裕層は潤ったものの、肝心の中間層の給与所得は伸びなかった。一方、ロシアのウクライナ侵攻後の物価高と今後ますます人手不足になる中で、このままでは優秀な外国人の人材獲得も難しくなることから、当時の岸田文雄首相は、企業に給与を上げるように経団連などに要望した。
 ただし、医療は国の予算から言うとコストと見なされ、1994年の初診料は診療所は221点だったのが、2006年には270点、そして現在291点でわずか31・7%の上昇にすぎなかった。この間、近くのチャンポン店は550円から970円(76・4%)の値上げであり、医療がいかに押さえ込まれていたかが分かる。
 さて、現在72歳の私が30代の頃、勤務していた福岡県内の某市立病院では、外来の看護師長は正看護師だったが、その他はパートの准看護師だった。この経験は開業後の診療所経営に役立った。入院の基準看護には看護師は必要だが、外来診療にはコスパの点で准看護師は欠かせない。医師会にとって古き良き時代、医師会立看護学校の卒業生は、低い給与でも献身的に働いた。また、毎年の昇給額も少額で済んだ。
 ところが、看護学部や看護大学の新設により、看護師の高学歴化が進むと、准看護師を目指す人は少なくなり、最近では、診療所が求人しても希望するような若い人材を確保することはできなくなった。その結果、佐賀県内の地区医師会立看護学校では、閉校になるところが出てきた。一方、看護師については、医師会立の卒業生でさえ都会の病院へ就職する人も増え、地域の診療所勤務を希望する人は少なく、このままいくと開業しても検査ができず、今後の医院経営を左右すると言っても過言ではない。
 従って、地方の診療所の人手不足は、給与問題というより、国家資格としての看護師が希望する仕事内容が、認定看護師などの普及により変化していっているのに対し、診療所が対応できていないこと、言い換えると雇用のミスマッチが起こっているため、人手不足は解消しないと思われる。
 そんな中、令和6年の医療保険制度改正でベースアップ評価料が導入された。通常、ベースアップは、個人の業績や勤続年数に関係なく全従業員が対象となるため組織全体の賃金を引き上げることにより、物価上昇に伴う手取額の減少に対応し、従業員のモチベーションを高め、優秀な人材の確保を目的に行なわれる。しかし現状は、医療費抑制策をベースにしながら架空の利益により給与を捻出するようなもので、とても長続きしそうにない。
 やはり原点に戻って、ベースアップは医療費抑制の対局にあり、それを考えると初診料や再診料などの基本診療料の大幅アップを財源にするのがあるべき姿であると主張すべきだろう。
 (常任理事 田中 裕幸)

●お問い合わせ ●リンク